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広島地方裁判所 昭和38年(行)2号 判決

原告 有限会社幟中央タクシー 外二名

被告 広島東税務署長 外一名

訴訟代理人 古館清吾 外八名

主文

一、原告らの本訴請求のうち、

(一)  被告広島国税局長が、原告有限会社幟中央タクシーに対し、昭和三七年一一月一日付をもつてした、右原告の審査請求に対する審査決定の取消しを求める部分、及び被告広島国税局長が、原告株式会社新広島タクシー、原告小野正夫に対し、昭和三八年六月二四日をもつてした、右原告らの異議申立棄却決定の取消しを求める部分は、いずれも訴えを却下する。

(二)  被告広島東税務署長が原告有限会社幟中央タクシーに対し、昭和三七年四月三〇日付をもつてした法人税賦課決定の取消しを求める部分及び被告広島国税局長が、原告株式会社新広島タクシー、原告小野正夫に対し、昭和三七年一一月二一日付をもつてした各法人税納付決定の取消しを求める部分は、いずれも請求を棄却する。

二、訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら、

(一)  被告広島東税務署長が、原告有限会社幟中央タクシーに対し、昭和三七年四月三〇日付をもつてした同原告の解散による清算所得についての法人税に関する賦課決定は、これを取り消す。

(二)  被告広島国税局長が、原告有限会社幟中央タクシーに対し、同年一一月一日付をもつてした第(一)項の法人税に関する審査請求に対する審査決定(一部取消しを含む棄却決定)は、これを取り消す。

(三)  被告広島国税局長が、原告株式会社新広島タクシー、同小野正夫に対し、同年一一月二一日付をもつて同原告らを第(一)項の法人税の第二次納税義務者としてなした法人税納付決定はこれを取り消す。

(四)  被告広島国税局長が、原告株式会社新広島タクシー、同小野正夫に対し、昭和三八年六月二四日付をもつてした第(三)項の法人税納付決定に対する異議申立ての棄却決定は、これを取り消す。

(五)  訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決。

二、被告ら、

主文同旨の判決。

第二、主張

(原告らの請求の原因)

一、原告有限会社幟中央タクシー(以下単に「原告有限会社」と略称する。)は、昭和三六年一二月一日社員総会における解散決議により解散し、同月七日その旨登記し、訴外三宅初太郎が清算人に選任された。

二、被告広島東税務署長(以下単に「被告署長」と略称する。)は、原告有限会社には、右解散に伴う清算所得があるとして、同三七年四月三〇日付で、同原告に対し、法人税額七八五万六、七四〇円及び無申告加算税額一九六万四、〇〇〇円を賦課する旨の決定(以下「本件賦課決定」と表示する。)をなし、同原告は、その頃、右決定の通知を受けた。

三、そこで、原告有限会社は、本件賦課決定を不服として、同三七年五月二五日被告署長に対し再調査請求をしたが、同被告は同年六月二二日これを棄却したので、同年七月二一日被告広島国税局長(以下「被告局長」と略称する。)に対し審査請求をしたところ、右被告は同年一一月一日付で法人税額を七八〇万一、六六〇円、無申告加算税額を一九五万〇、二五〇円に各減額する旨の一部取消し、一部棄却の審査決定(以下「本件審査決定」と略称する。)をなし、同原告は、その頃その旨の通知を受けた。

四、次に、被告局長は、原告株式会社新広島タクシー(以下「原告株式会社」と略称する。)が、原告有限会社から残余財産の分配を受けたもの、原告小野正夫が原告有限会社の清算人である旨各認定し、同三七年一一月二一日付で、右原告両名に対し、原告有限会社の清算所得に関し、国税徴収法第三四条所定の第二次納税義務者として、それぞれ法人税額七八三万二、二八〇円及び無申告加算税額一九六万四、〇〇〇円を各納付すべき旨の納付決定(以下「本件納付決定」と表示する。)をなし、同原告らは、その頃、右決定の通知を受けた。

(なお、被告局長は、同四〇年一一月三〇日付で同原告らの右納付すべき法人税額を七七七万六、二〇〇円に、無申告加算税額を一九五万〇、二五〇円に各減額した。)

五、そこで、同原告らは、本件各納付決定を不服として、同三七年一二月一八日被告局長に対し、異議申立てをしたが、同被告は同三八年六月二四日付で、これを棄却する旨の決定(以下「本件棄却決定」と表示する。)をなし、同原告らは、その頃、右決定の通知を受けた。

六、しかしながら、原告有限会社には、同三六年一二月一日の解散時において、清算所得は全くなく、また原告株式会社は原告有限会社から残余財産の分配、引渡しを受けたことはなく、原告小野正夫は、原告有限会社の清算人に選任されたことも、残余財産の分配、引渡しをしたこともない。

従つて、被告署長がなした本件賦課決定、被告局長のなした本件審査決定、本件各納付決定、及び異議申立てに対する棄却決定は、いずれも違法である。

七、よつて、原告有限会社は、被告署長に対し本件賦課決定の取消しを、被告局長に対し本件審査決定の取消しを、原告株式会社、原告小野正夫は被告局長に対し本件各納付決定並びに異議申立てに対する棄却決定の各取消しを求めるものである。

(被告らの答弁)

一、請求原因第一項の事実のうち、原告有限会社が解散し、昭和三六年一二月七日その旨登記したことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告有限会社は、同年三月二七日解散し、同日原告小野正夫が、右原告会社の清算人に選任されたものである。

二、請求原因第二ないし第五項の各事実はいずれも認める。

(被告らの主張)

一、本案前の申立て、

原告らの本訴請求のうち、原告有限会社が被告局長に対し、本件審査決定の取消しを求める部分及び、原告株式会社、原告小野正夫が被告局長に対し、本件異議申立てに対する棄却決定の取消しを求める部分は、次のとおり、不適法な訴えであるから、却下されるべきである。

すなわち、原告らは、右各請求の理由として、いずれも、原処分の違法を主張するが、被告局長のなした右各決定は、いずれも裁決であり、裁決について原処分の違法を理由としてその取消しを求めることは、行政事件訴訟法第一〇条第二項の規定により許されない。

二、本案について、

(一) 原告有限会社の清算所得、法人税、無申告加算税について、

原告有限会社は、前記のとおり、昭和三六年三月二七日解散したものであるが、右原告は、次に述べるとおり、清算所得が少なくとも一、八一四万三、四五三円を超えるにも拘らず、法定期限までに右所得の確定申告書を提出しなかつたものであるから、被告署長のなした本件各賦課決定は、被告局長の本件審査決定によつて維持された範囲内においては、何ら違法でない。

(1)  清算所得の算出について、

法人が解散した場合における清算所得は、その残余財産の価額が解散当時の資本金額、資本積立金額及び再評価積立金額の合計額を超える金額をいうのあでるから、その計算方式に従つて、原告有限会社の清算所得を算出すると、別表(一)のとおりである。

(2)  右清算所得に対する法人税額の算出、

同原告の清算所得のうちには、積立金及び非課税所得から成る部分の金額がないので、法人税法第一七条第一項第二号の規定により、清算所得金一、八一四万三、四〇〇円(一〇〇円未満切捨て、国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律第五条)に税率一〇〇分の四三を乗じて、税額七八〇万一、六六〇円(一〇円未満切捨て、同法第六条同)を算出したものである。

(3)  無申告加算税額の算出、

同原告は、清算中に法人税法第二二条の四に規定する確定申告書を法定期限後三か月を経過してもなお被告署長に提出しなかつたので、同法第四三条第二項の規定により法人税額七八〇万一、〇〇〇円(一、〇〇円未満切捨て、同条第四項)に税率一〇〇分の二五を乗じて無申告加算税額一九五万〇、二五〇円を算出したものである。

(二) 原告株式会社及び同小野正夫が第二次納税義務を負う根拠について、

(1)  原告有限会社は、昭和三六年三月二七日、原告株式会社に対し、合計二、九二七万五、〇〇〇円相当の前記残余財産(以下「本件係争資産」という。)を譲渡し、その結果原告有限会社の財産は皆無となり、同原告に賦課された前記国税について同原告に対し滞納処分を執行してもこれを徴収することができない状態になつた。従つて、原告株式会社は、本件係争資産の分配、引渡を受けた者として、また原告小野正夫は、原告有限会社の清算人であり、右資産の分配、引渡しをした者として、それぞれ国税徴収法第三四条の規定により、右資産の価額の限度において、第二次納税義務者として、前記法人税額七七七万六、二〇〇円及び無申告加算税額一九五万〇、二五〇円を納付すべき義務がある。

(2)  原告株式会社が、原告有限会社から本件係争資産を譲り受けた経緯は、次のとおりである。

原告株式会社は、昭和三五年頃から同業者である原告有限会社の営業権を買収することを企図し、その頃から両会社間にそのための交渉がもたれたが、この買収の方法については、訴外矢葺弘次及び又森金一が有していた原告有限会社の持分全部(原告有限会社の社員は右両名のみであり、その出資口数は前記矢葺が二、四〇〇口、同又森が一〇〇口)を原告株式会社が譲り受けることとし、昭和三五年一二月七日右訴外人両名と原告株式会社との間で、

1 原告株式会社は右訴外人両名の持分全部を合計二、六〇〇万円で譲り受ける。

2 右代金の支払期日は、同三六年三月二五日とし、代金支払いと同時に右持分譲渡の効力が生ずるものとする。

旨の契約を締結し、右支払期日に代金の支払いがなされたので、原告株式会社は、原告有限会社の唯一の社員となつたのである。ところが、何故か同日原告株式会社の取締役佐々木芳雄を新たに社員に加入させて原告有限会社を継続する方法をとつた。しかし、原告有限会社には事業を継続する意図はなく、原告株式会社としても右のように原告有限会社の実権を掌握したのであるから、原告有限会社を早急に解散させ、道路運送法上必要な諸手続をとつて、その営業を完全に自己のものとすべく、(そうしないと、法律的には原告有限会社の社員の交替があつたに止り、原告株式会社としては、自己の名において、その営業をなしえない)ここにおいて、原告有限会社は、同月二七日社員総会における解散決議により解散し、原告小野正夫が清算人に就任し、同日付で運輸大臣(広島陸運局長)に対し、道路運送法第四一条に基づく事業廃止手続をとり、同年四月一日付で、同法第四二条に基づき、右解散決議の認可申請をなしたところ、運輸大臣は、同月二八日右解散決議を認可した。

一方、原告株式会社は、原告有限会社の右事業廃止手続に対応して、同年三月二八日付で、同法第一八条による事業計画変更(増車認可申請)の手続をとつている。右の事実経過に照せば、前記持分譲渡の効力発生の日(同月二五日)に接して同月二七日、原告有限会社は、原告株式会社に対して、本件係争資産を黙示的に譲渡したものとみなさざるをえない。

ところで、原告有限会社が解散決議をなし、原告小野正夫が、清算人に選任されたのが、いずれも同三六年三月二七日であり、右解散決議につき運輸大臣の認可があつたのは、同年四月二八日であるから、それまでは右解散決議の効力は生ぜず、本件係争資産は残余財産ではなく、また原告小野正夫も清算人ではないとも考えられるが、先に述べたごとく、原告有限会社は、前記持分譲渡の効力が生じた同年三月二五日以降は解散することを前提として、ことに解散決議のあつた同月二七日以降は、解散に伴う関係諸手続のみ進めて、もつぱら実質的な清算事務を行つており、事業継続の意思も行為も全く存在しないのであつて、本件係争資産は、もつぱら清算の対象たるべき財産であり、また、原告小野正夫も実質的には清算人としての地位にあり、その地位に応じた行為をしているのであるし、右解散決議もほどなく認可されているから、国税徴収法第三四条の適用上、本件係争資産は残余財産であり、原告小野正夫は清算人に該当するというべきである。本件においては、本件係争資産の前記黙示的譲渡が原告有限会社の右解散決議のされた同三六年三月二七日の前であるか否か、あるいは右解散決議が認可された同年四月二八日の前であるか否かによつて、本件係争資産が残余財産であるか否かを決するのは、形式論に過ぎるのであつて、実質課税の原則をとる税法上の要請に鑑み、事柄を実質的、目的的に観察して、右のように判断すべきである。

(被告らの主張に対する原告らの反論)

一、本案前の申立てについては、争う。

二、原告有限会社の清算所得、法人税及び無申告加算税に関する主張について、

右の各金額の算出方法が、いずれも被告ら主張のとおりであること、原告有限会社に被告ら主張のとおり合計八六三万一、五四七円の負債があつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

右原告には、解散前、被告ら主張のような合計二、九二七万五、〇〇〇円相当の本件係争資産が存していたが、右原告は、昭和三六年三月一一日、訴外広島タクシー株式会社(以下単に「訴外会社」と略称する。)に対し、本件係争資産のうち自動車六台分の営業権を合計一、二〇〇万円で売却し、また、同日、原告株式会社に対し、その余の資産(自動車七台分の営業権、トヨペツト五台、ブルーバード二台、カークーラー五台、無線施設基地局一台、移動局一二台)を合計一、七二七万五、〇〇〇円で売却し、同月二五日それぞれ引渡しを完了した。

そして、右各売買代金合計二、九二七万五、〇〇〇円については、原告株式会社が訴外会社の分も立て替えることとし、原告有限会社の代表者である訴外矢葺弘次に対し、同月一一日、二〇〇万円を、同月二五日残額(なお、原告株式会社は、原告有限会社の債務合計八六三万一、五四七円を引き受けたので、右の額を売買代金から控除した一、八六四万三、四五三円である。)を支払つたところ、訴外矢葺弘次及び原告有限会社の取締役である訴外又森金一が、右代金を分け取りして持去つたので、原告有限会社には、同年一二月一日解散した当時、何らの残余財産が存在しなかつたのである。従つて、原告有限会社に清算所得が発生するいわれはない。

三、原告株式会社及び原告小野正夫の第二次納税義務に関する主張について、

被告らの主張を否認する。

原告有限会社は、前記のように、本件係争資産を訴外会社及び原告株式会社に譲渡したものであるが、右資産の譲渡につき、同三五年一二月三一日までの間に有価証券の譲渡すなわち持分権の譲渡がなされた形式をとれば、その所得につき課税されなかつたので、原告有限会社の代表者訴外矢葺弘次の依頼により、原告株式会社らは、右資産の譲渡につき、訴外矢葺及び同又森の原告有限会社への出資持分の譲渡契約が同三五年一二月七日になされたごとく契約書を作成したにすぎないものであつて、真実被告ら主張のような持分譲渡契約がなされたものではない。

また、被告ら主張の解散決議及びその認可申請は、前記営業権の譲渡を受けた原告株式会社及び訴外会社が増車認可の申請をする手続上、形式的になされたものにすぎない。原告有限会社の解散は、昭和三六年一二月一日であり、右時点では、右原告会社に残余財産は存しない。

第三、〈証拠省略〉

理由

第一、原告有限会社の被告局長に対する本件審査決定の取消請求並びに原告株式会社及び原告小野正夫の被告局長に対する異議申立棄却決定の取消請求について。

原告らが取消しを求める本件審査決定及び異議申立棄却決定は、いずれも原処分に対する不服申立てについての裁決であるが、原告らは、その取消しを求める理由として原処分の違法、すなわち、原告有限会社に清算所得が存在しないこと、原告株式会社、原告小野正夫に原告有限会社の清算所得に対する法人税につき第二次納税義務がないことを主張する。

しかしながら、本件は、原処分の取消しの訴えと裁決の取消しの訴えの双方を提起することができる場合であるから、行政事件訴訟法第一〇条第二項により、裁決の取消しの訴えにおいては、原処分の違法を理由として取消しを求めることはできない。

従つて、原告らの本訴請求のうち、右の裁決の取消しを求める部分は、不適法なものであるから、却下を免れない。

第二、原告有限会社の被告署長に対する本件賦課決定の取消請求並びに原告株式会社及び原告小野正夫の被告局長に対する本件各納付決定の取消請求について。

一、右各課税処分及び不服申立てに関する経緯については、当事者に争いがない。

二、そこで、原告有限会社の解散に伴う清算所得について検討する。

(一)〈証拠省略〉によれば、原告有限会社及び原告株式会社は、いずれも一般乗用旅客自動車運送事業(以下「タクシー事業」と表示する。)を目的とする法人であるが、原告有限会社は資本金三七〇万円、営業権一三両分、社員矢葺弘次、又森金一からなる小規模なものであり、原告株式会社は、資本金六〇〇万円、営業権五〇両分を有し、代表取締役は小野正夫であるが、同人が同じく代表取締役である訴外広島タクシー株式会社(営業権一八六両分)と同一系列下にあり、広島市内でも有数のタクシー会社と言いうるものである。そして、原告有限会社は、経営規模が小さいため、経営が思わしくないこと、代表者の矢葺がタクシー事業経営の意欲を失つたこと等から、その保有している営業権及び車両等の営業資産を売却しようとした。一方、原告株式会社は、なおその営業を拡張するため、原告有限会社の営業権を引き継ごうとして、両者の間で、昭和三六年初め頃から、買収交渉がもたれたことが認められる。

(二)  ところで、右交渉の結果につき、原告らは、原告有限会社の営業権一三両分を、原告株式会社が七両分、訴外広島タクシー株式会社が六両分を各譲り受ける旨の契約が成立したと主張し、被告は、前記矢葺、又森両名が有する原告有限会社の持分権を原告株式会社が譲り受ける旨の契約が成立したと主張するので以下判断する。

(1)  〈証拠省略〉によれば、前記矢葺は、原告有限会社の代表者として、昭和三四年頃訴外スミレタクシー株式会社を買収したが、その際右訴外会社の出資持分権を譲り受ける形式をとつたところ、多額の税金を賦課された経験を持ち苦労したことがあつたので、本件の売買については、自己に課税されることを極度におそれ、これを回避する方法をとることにつとめ、昭和三五年一二月以前に、出持資分権の譲渡(個々の資産の譲渡ではないとの意味)がなされたことにすれば、譲渡者に課税はないもの(すなわち、譲り受ける側に課税される筋合となる)と考え、交渉の間一貫して持分権譲渡の方法によることを主張していたこと及び原告株式会社も右矢葺の主張に合意して、右矢葺及び訴外又森金一の原告有限会社に対する出資持分権を譲り受ける旨の契約が昭和三五年一二月七日、両当事者間で成立した旨の契約書〈証拠省略〉が作成されたことが認められる。

(2)  本件売買代金が昭和三六年三月二五日完済されたことは当事者間に争いのないところであるが、〈証拠省略〉によれば、前同日、原告有限会社の取締役であつた前記矢葺弘次及び又森金一が辞任し、原告株式会社の代表取締役である原告小野正夫及び専務取締役の佐々木芳雄が、原告有限会社の取締役に就任し、原告有限会社の代表取締役として原告小野正夫は、昭和三六年三月三〇日付で、広島陸運局長に対し、右の社員変更届出書を提出し、右届出書には変更の理由として、前記矢葺及び又森の出資持分権を原告株式会社が譲り受けたため、前両人が原告有限会社を退社したこと及び、右両名に代つて、原告小野正夫及び訴外佐々木芳雄が取締役に就任した旨記載されていることが認められる。

(3)  〈証拠省略〉によれば、本件売買代金は、前記矢葺及び又森が受領しており、原告有限会社に入金されていないのであつて、原告有限会社の取締役となつた原告小野正夫及び訴外佐々木芳雄もこれに対して何らの異議を唱えた形跡がないことが認められる。

(4)  〈証拠省略〉によれば、本件売買の手付金二〇〇万円は、原告株式会社振出しの小切手によつて支払われており、右小切手の控えの摘要欄に「出資口譲受内金手付」と記載されていること、及び、本件売買代金残額も原告株式会社は、すべて持分権譲受代金として手形を振出して支払つた旨の帳簿処理をしていることが認められる。

(5)  〈証拠省略〉によれば、原告有限会社は係争事業年度の法人税につき、被告局長に対し、審査請求をしているが、その請求の理由として、原告有限会社が譲渡したものは、前記矢葺及び又森が有していた持分権であることを主張している事実が認められる。

以上認定した諸事実を覆えすに足りる証拠はない。

右各認定した事実並びに前掲各証拠を綜合すれば、本件売買は、昭和三六年三月一一日、原告株式会社と訴外矢葺弘次、同又森金一との間で、右原告が訴外人両名から、同人らが、原告有限会社に対して有していた持分権(右原告の社員は両名のみであり、矢葺の持分二、四〇〇口、又森の持分一〇〇口)を譲り受ける旨の契約が成立し、持分権の評価は、原告有限会社が有していた一切の財産を対象として行い、まず、営業権を車両一両分につき二〇〇万円、合計二、六〇〇万円、その他の財産は、昭和三六年三月二五日現在原告有限会社の保有していた車両(一三両)、カークーラー、無線設備等を三二七万五、〇〇〇円と評価し、右の合計額二、九二七万五、〇〇〇円から、前同日現在、右原告が負つていた負債八六三万一、五四七円を控除した残額二、〇六四万三、四五三円をもつて、持分権全体の価額とし、これを前記矢葺、又森両名の持分権の比率に従つて、按分した額を持分権譲渡価額としたものであると認定するのが相当である。

原告らの主張に副う(証拠省略-営業譲渡契約書)は、昭和三六年三月二七日作成のものであり、原告有限会社の代表者として、当初矢葺弘次の名前が記載されていたものが、小野正夫と訂正されているところから、右矢葺が原告有限会社の代表者として契約したことを証明するものでなく、また、〈証拠省略〉によれば、同人の関知しないものであると認められるので、前記認定の妨げとなるものではなく、前記認定に反する〈証拠省略〉は、前掲各証拠に照し措信し難く、他に前記認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三)  原告有限会社の解散

前記持分権の譲渡契約により、原告株式会社は、訴外矢葺弘次、同又森金一に代つて、原告有限会社の唯一の社員となり、代表取締役の原告小野正夫及び専務取締役の佐々木芳雄が原告有限会社の取締役となつたが、もとより、右原告会社を存続させる意思はなく、その営業権を引き続いで、自己の営業権を拡張する意図であつたが、そのためには、道路運送法の規定により、原告有限会社の事業廃止並びに原告株式会社の増車認可の手続をすることが必要であつた。

そこで、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨に照らし成立の認められる〈証拠省略〉によれば、原告有限会社は、昭和三六年三月二七日社員総会において、経営不振等を理由に、まず、タクシー事業の全部を廃止する旨決議し、ついで、解散決議をした事実が認められる。

原告らは、右解散決議は、陸運局長に対する原告有限会社の事業廃止手続を簡便にするためになされた形式的なものであり、右原告会社が解散したのは、昭和三六年一二月一日である旨主張し、右主張に副う〈証拠省略〉があるが、前掲〈証拠省略〉によれば、原告有限会社は、前記事業廃止決議及び解散決議ののち、同年四月一日付をもつて、広島陸運局長に対し、道路運送法第四二条第一項及び同法施行規則第二五条の規定により、前記解散決議の認可申請を行い、同月二八日右認可を受けていることが認められ、また、後記説示するように、右原告会社は、同年三月二七日ないし二九日の間に営業権並びに営業用財産の全てを原告株式会社に引き渡している事実から考えると、前記解散決議以降、原告有限会社は、タクシー事業を継続する意思をもたず、もつぱら、解散にともなう清算手続のために存続したものと判断するのが相当であり、右原告会社の解散は、前記解散決議がなされた昭和三六年三月二七日であるとするのが真実に合致し原告のら主張する解散日時は、単なる登記手続上のものにすぎないと判断される。

(四)  原告有限会社の清算所得について。

前記説示に基づけば、原告有限会社は、持分権譲渡契約により、昭和三六年三月二五日、社員の交替があつたに止まり、その保有財産に変更をきたしたものではなく、また、前記日時における原告有限会社の保有財産の価額については、当事者間に争いがない(原告らは、右財産が、前同日営業権譲渡契約により原告株式会社及び訴外広島タクシー株式会社に引渡されたと主張するもの。)ところから、同月二七日原告有限会社が解散した時点では、別紙のとおり残余財産が存在したことになり、かつ清算所得の算定方法については、当事者間に争いのないところから、右残余財産の価額二、〇六四万三、四五三円から、原告有限会社の解散当時の資本金額二五〇万円を差し引いた額一、八一四万三、四五三円の清算所得が発生した事実が認められる。

三、右清算所得に対する法人税並びに無申告加算税の賦課決定について。

(一)  原告有限会社は、法人税法第一七条第一項第二号の規定により、前記清算所得金一、八一四万三、四〇〇円(一〇〇円未満切捨、国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律第五条)に税率一〇〇分の四三を乗じた税額七八〇万一、六六〇円を納付すべき義務がある。

(二)  右原告会社は、その清算中に法人税法第二二条の四に規定する確定申告書を法定期限後三か月後を経過してもなお被告署長に提出しなかつたので、同法第四三条第二項の規定により、法人税額七八〇万一、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨、法人税法第四三条第四項)に税率一〇〇分の二五を乗じた無申告加算税額一九五万〇、二五〇円を納付すべき義務がある。

(三)  従つて、被告署長が、原告有限会社の清算所得につき、課税した本件法人税賦課決定並びに無申告加算税賦課決定は、いずれも違法なものでなく、その各取消しを求める右原告会社の請求は理由がない。

四、原告有限会社の前記法人税に関する原告株式会社及び原告小野正夫の第二次納税義務について。

(一)  右原告らに対する本件納付決定当時(昭和三七年一一月二一日)、原告有限会社が、前記法人税を滞納していたこと、そして、被告局長が右原告会社に対し滞納処分を執行しても徴収不能の状態にあつたことは、当事者間に争いのないところであり、右原告会社が前記説示した解散時(昭和三六年三月二七日)において残余財産を有していたことは、右原告会社の清算所得を認定した部分で説示したとおりであり、その合計価額二、〇六四万三、四五三円が国税徴収法第三四条にいう残余財産に当るものである。

(二)  そこで、まず原告株式会社が右残余財産の分配、引渡しを受けたか否かにつき検討する。

〈証拠省略〉によれば、昭和三六年三月二九日付をもつて、広島陸運局長から、原告株式会社は七両分の、訴外広島タクシー株式会社は六両分の各増車認可を受けている事実が認められ、また、〈証拠省略〉によれば、原告株式会社は同月二七日原告有限会社から前記残余財産の一部である車両(一三両)、無線基地局(一台)、無線移動局(一二台)及び付属品、カークーラー一台を譲り受けた旨伝票処理をしていることが認められるが、原告株式会社から原告有限会社に対してその対価が支払われたことを証明するものはない。そして弁論の全趣旨に照せば、前記増車認可のあつた日以後、原告株式会社が原告有限会社の右残余財産を自己のものとして使用していることが明らかである。

右の諸事実並びに前記説示した出資持分譲渡契約から原告有限会社の事業廃止及び解散手続に至る事実経過を綜合すれば、原告有限会社の残余財産は、昭和三六年三月二七日ないし二九日の間に原告株式会社に引き渡されたものと認定するのが相当である。

なお、訴外広島タクシー株式会社が六両分の増車認可を受けている点は同会社が残余財産の一部の引渡しを受けたかのようにみえるが、 〈証拠省略〉によれば、昭和三六年三月二七日、右訴外会社から原告株式会社に対し営業権六両分の対価として一、二〇〇万円が支払われている事実が認められるところから、原告株式会社が、一三両の営業権の引渡しを受けたのち、そのうち六両分を訴外会社に譲渡したのであるが、時日が近接しているため、陸運局長に対する増車認可の手続のうえでは、右六両分につき、原告有限会社から原告株式会社への譲渡手続が省略されたものと解する。

以上の事実によれば、国税徴収法第三四条により、原告株式会社は、原告有限会社の滞納法人税につき、残余財産の引渡しを受けたものとして、右引渡しを受けた財産の価額の限度で第二次納税義務を負うべきものとなる。従つて、被告局長が原告株式会社に対してなした本件納付決定は、何ら違法なものでなく、その取消しを求める原告株式会社の請求は理由がない。

(三)  次に、原告小野正夫の第二次納税義務について検討する。

前記説示したとおり、右原告が、昭和三六年三月二五日原告有限会社の取締役に就任したこと及び原告有限会社が同月二七日解散したこと並びに〈証拠省略〉を綜合すれば、原告小野正夫が、原告有限会社の解散決議と同時に清算人に選任されたことが認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。

右の事実及び、(二)項で説示した残余財産の引渡し等の事実によれば、原告小野正夫は、国税徴収法第三四条により、原告有限会社の滞納法人税につき、右原告会社の清算人として第二次納税義務を負うことになる。従つて、被告局長が原告小野正夫に対してなした本件納付決定は何ら違法なものでなく、その取消しを求める右原告の請求は理由がない。

第三、結語

以上の理由により、原告らの本訴請求のうち、原告有限会社の被告局長に対する本件審査決定の取消請求並びに原告株式会社及び原告小野正夫の被告局長に対する各異議申立棄却決定の取消請求は、いずれも不適法なものであるから、訴えを却下し、原告有限会社の被告署長に対する本件賦課決定の取消請求並びに原告株式会社及び原告小野正夫の被告局長に対する本件各納付決定の取消請求は、いずれも理由がないから、請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 熊佐義里 塩崎勤 井上郁夫)

別紙

I 残残余財産の価額の計算

(資産の部)

一、営業権  二六、〇〇〇、〇〇〇円

法人税法施行規則第二三の八の規定により営業権の価額とみなされた金額

二、営業用車両 一、三〇五、〇〇〇円

トヨペット五台、ブルバード二台

三、備品      二九〇、〇〇〇円

カークーラー五台

四、設備    一、六八〇、〇〇〇円

無線施設基地局一台、移動局一二台

小計(A)  二九、二七五、〇〇〇円

(負債の部)

一、買掛金     五〇三、四六六円

二、未払費用    一〇五、二九〇円

三、支払手形  二、三一五、五五〇円

四、借入金   四、二〇七、二四一円

五、未払税金  一、五〇〇、〇〇〇円

小計(B)   八、六三一、五四七円

差引残余財産の価額(A-B) 二〇、六四三、四五三円

II 清算所得の計算

一、残余財産の価額(C)     二〇、六四三、四五三円

二、同原告の解散当時の資本額(D) 二、五〇〇、〇〇〇円

三、差引清算所得(C-D)    一八、一四三、四五三円

(同原告には、資本積立金再評価積立金は、いずれも存しない。)

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